場で起こった小さな変化が次々に伝播し、全社を変えるムーブメントに ~計画を超えた自己組織化の鍵~

大手人材会社にて「働き方の未来」をテーマで全社の組織開発へつなげたケースをご紹介します。

▼ポイント

1 メンバーが主体的に取り組む自己組織化を起こしながら、全社の文化や働き方が変わって行く組織開発の起こし方
2 その原動力となった、全ての変化に通底する「変わり方の原型」

▼期間 2016年〜継続中[2020年12月現在]

▼プロセス 

フェーズ1 ボードメンバー対話[1日×3回]
「働き方の未来」ビジョンを創造し、実践へつなげる

フェーズ2 全社の縮図となるデザインチーム [6ヶ月]
手触り感のある「働き方の未来」ビジョンを創造し、全社に展開

フェーズ3 全部長対象ワークショップ[1日×2回]
部長自身が「働き方の未来」のビジョンを創造し、日常とつなげる

フェーズ4 ワーキンググループ(フロント業務改革・電話・ペーパレス化・マインドチェンジ)[1年間]
「働き方の未来」のビジョンに基づき、全社の働き方を変える 

フェーズ5 課長クラスからリーダークラスへ全社展開[2018年〜継続中]
プロジェクトメンバー「働き方の未来」ワークショップでの対話を運営

Close up Story  今までの変革の概念を超え ”皆で楽しく変わる”

A社の「働き方の未来」の変革活動は、一般には「働き方改革」として、業務時間の削減や社内規制の緩和などが多くの企業で取り組まれているが、実際の様子を見るとその雰囲気の違いに驚く人が多い。トップや人事が、口を酸っぱく皆を鼓舞している姿もなく、現場の人々が歯を食いしばりながら、やらされ感で邁進している姿もない。そのポイントは何か。

まず、一人ひとりの前のめりの姿勢。経営層はもちろん、社員の一人ひとりが人生の可能性を楽しく再考することから始め、新しい働き方のトライアル&エラーを繰り返してきた。その結果、業務の変革に結びついたものも。例えば、働き方を広げるためにある顧客面談プロセスがボトルネックになっていたのだが、それに対しても「zoomでやってみれば?」と、当時としては思い切ったアイデアが出る。経営陣も現場も「すぐにやってみよう」と試してみる。実際にはそのアイデアはうまくいかなかったものの、その失敗から学び、結果的にzoom以外の道が見つかった。

もう一つは、変革の動きが自己組織化しながら大きく進化していること。フェーズ4のワーキンググループでは、事業部門のトップがリーダーになり、自主的に手をあげたメンバーも加わった。実は、最初の数ヶ月の多くの時間を、「そもそもなぜこのプロジェクトをやるのか?」の目線合わせをすること、実体験を持って魅力を感じることに時間を割いた。一見時間をかけ過ぎのようにも見えるこのプロセスがあったがゆえに、その後は、メンバーの主体的な活動によって、急速に活動が進んだ。リモートワークの実施率は自主的な選択であったが1年で80%を超え、それに呼応する形で営業プロセスの再構築や固定電話の廃止・ペーパレス化の推進も加速度的に進んだ。

フェーズ5の「働き方の未来」ワークショップは、参加者一人ひとりが2030年の未来を見据え、自分の働き方を楽しくビジョンを定め、周りと対話し、一歩踏み出る内容だった。このワークショップは、社員一人ひとりのものの見方や働き方を大きく変えるきっかけになったが、このファシリテーターも途中からToBeingsから、社内にバトンタッチし、ファシリテーターも人事だけでなく、この活動に興味を持った事業部のメンバーとのコラボで行うようになった。その結果、より現場のリアリティがある言葉が交わされるようになっただけでなく、参加者からファシリテーターをやりたいという人まで集まり、マインドや行動の変化が全社にスケールしていった。

 全社に広がる鍵はなんだったのか、以下で解説いたします。

<解説>

組織に大きな変化を起こすには、変化を起こしたい人の頭にある構想にこだわるより、組織という生命体に起ころうとしている、目に見えない”うねり”を捉え、それを後押ししていくイメージで関わることが大切です。サーフィンのように、うねりを感じとり波に乗ることと似ているかもしれません。

この事例におけるうねりは、「未来の可能性が加速度的に変化することを理解し、その未来に自分の働き方・生き方の可能性を感じた時に「はっ」としワクワクするような無意識の願いが入口です。さらに、対話を通して変化への恐れや抵抗を丁寧に乗り越え、実際に新しい働き方を実験してみた時に、人生の可能性が広がるような感覚が原動力になっています。

そのうねりの端緒は、プロジェクトの立ち上げの際、A社人事と弊社の企画チームの中で、浮かび上がってきました。

ちょうど2016年、AIがメディアを騒がし、リンダ・グラットンの「LIFE SHIFT」が発売され、リモートワークはもちろん、週休3日のような働き方が生まれ、多拠点生活や拡張家族、オンライン大学での学び直しといった生き方の転換も起こり始めている時期でした。

企画チームは心理的安全性を土台に、自らリモートワークをしたり移住したりと試しはじめ、次第に働き方の未来の可能性を痛感しました。

その熱量は、最初の企画のフェーズ1のボードメンバー対話に伝播しました。最初こそ緊張感から始まったのですが、丁寧にほぐし安心感を醸成すると、回が進むごとにその新しい未来を試し、楽しむ人が出てきました。

ある時、「リモートで役員会に入ろうとしたら、奥さんに『家を映すな」と怒られた」というエピソードが笑いながらシェアされました。それはまさに、「個人の人生を真ん中にして、新しい未来を楽しむこと」が会社として、場として喜ばれ、承認されている象徴的な瞬間でした。

それ以降のあらゆる施策の根底には、「安全な場を作り、誰のためでもない自分の未来の可能性に触れ、恐れを脇に置き、小さな実験を通して、失敗も笑いながら、少しずつ未来の可能性に触れる」という変化の原型がありました。自分が変化し楽しいから自然に広がる。そのうねりに押され、A社の働き方の変革は、自己組織化を通じて全社に広がっていきました。