経営トップ〜ボードメンバー〜マネージャーの関係性にみる相似形 〜一枚岩の幻想を超えた全社変革

ボードメンバーでの対話の変化を、全社の組織開発につなげたモデルケースです。

相似形の連鎖によって形作られる野菜、ロマネスコ/

▼期間 2018年〜継続中(2020年11月現在)

▼プロセス

フェーズ1 ボードメンバーの定期的な対話及び合宿を通した”一枚岩”の実現(3時間×6回+2日間合宿)

フェーズ2 各ボードメンバーへのエグゼクティブ・コーチング(月1回)

フェーズ3 社長と全マネージャーを集めたワークショップ(1日×3回)

フェーズ4 日常業務のプロセス変革を通したアジャイルなカルチャーへの転換(現在)

▼ポイント

1:”一枚岩”、”一体感”など組織で求められがちな理想を手放すことで、本当の”チーム”ができる
2:全社のマネジメントスタイルが相似形であることを活用した、全社変革への応用

Close up Story 
”一枚岩”を目指すことでは”一枚岩”にならない

ファミリー企業ならではのパワーバランスを乗り越えたい 

創業3代目社長が率いる通信機器メーカーであるB社は、近年M&Aによる規模の拡大で急成長してきた。創業家によくあることだが、実質的影響力は、社長に大きく集中し、その反面、創業時の事業とM&Aで付加された事業間では、横の連携も交流もほとんど無かった。

社長の問題意識は、「自分に進言するくらい、自分の頭で考え抜いている役員が欲しい」そして、「役員レイヤーで、自分の管掌を超えて、一枚岩の組織を作りたい」というものだ。

その背景の願いや痛みをヒアリングする過程で、他の役員に伝わっていないような社長の思いが聞こえてきた。そして、どちらの課題も真に取り組むには、役員側の変容はもちろん、社長自身のマインドや所作の変容も必ずやテーマになることをお伝えすると、そのことも含めた強いコミットメントを頂いた。

フェーズ1では、経営会議メンバーで定期的な対話の場を作り、真に安心・安全な対話環境を作るところから始めた。誰も「安心・安全な対話環境」がどんな状況か、体験したことのない状態だったので、違和感を感じながらの参加であったが、その場から湧き上がるテーマを深めていくと、次第にボードメンバーが社長に対してこれまで言えなかった葛藤も少しずつ声をあげて対話されるようになってきた。

その対話から、双方のコミュニケーションの食い違いが明らかになってきた。社長は、役員に対して想像以上に大きく影響力を持っていて、助言をしているつもりで、その強い物言いで役員が傷ついたことが多々あった。

役員側は、そのトラウマから、社長の前になると思考停止や受け身の体勢になり、その態度自体が、社長の「誰も舵を握らないのではないか」という不安を掻き立て、さらに強い物言いがエスカレートしていくという負のスパイラルが起こっていた。

その対話を通して、役員側はパワーを回復していき、「こんな前置きをしてもらえると安心する」という依頼を自ら出し、誰かが言葉に詰まった時に他の人が間に入ってサポートするなど、みんなで少しずつリーダーシップを発揮していくという姿勢へと変化が生まれてきた。社長側も発言が柔らかくなるだけなく、「自分だけが考えていて、正しい答えを持っている」という認識が次第に外れ、いろんな考え方を承認していくという変容が起こってきた。

一枚岩幻想を超える

フェーズ2では、次の段階として、「ボードメンバーが一枚岩になっていないこと」をテーマにした経営合宿をした。

対話のはじめは、「今はバラバラなので一枚岩になろう」という声をあげるほど、表面的には全員が同意するも、場のエネルギーが下がっていくという状況が続いた。

長い停滞とモヤモヤを超えて、最後に出てきた声は「なぜ、一枚岩になる必要がある?」という一見”投げやり”にも聞こえる声だった。一瞬固まった空気を捉えて、水を向けると、実は多かれ少なかれ同じような思いを抱えていたことが共有された。ここから場のエネルギーは一気に上がり、違うことへの安心感と関心が高まった。

そして、自分の仕事人生の物語を語り、普段主張していることの根っこにある出来事が語られた時、表面的な方向性はバラバラであるものの、深い部分で一人の人間として共感や繋がりが生まれた。逆説的に、押しつけ感のない一体感が場から生まれてきた。

話は事業の方向性について波及していき、”一枚岩”という同質性への圧力を手放した時、古くからある創業系の事業の経営的な意味や文化と、新しい事業の経営的な意味や文化それぞれが尊重されそのどちらも役割を持っていることが浮かび上がってきた。

その後、フェーズ3でのB社のマネージャーを集めた対話では、社長やボードメンバーがこれまでの対話の気づきを会話し、合宿同様の話社長の人生の物語をマネージャーに語った。最初は「やらされ感」で集まったマネージャー陣にも、その対話は驚きを持って受けとめられ、リーダーシップスタイルの話も、一枚岩の幻想についても我が事として感じる人がほとんどであった。その後は、マネージャー同士でも人生の物語を語り合い、現状の断絶した組織の現状を認め、今後の会社のビジョンや方向性を皆で語り合うこととなった。

現在は、その方向性を日常で実践していく活動が、プロジェクトとして始まっている。

<組織心理学的な解説>

一枚岩の弊害

One●●という組織ビジョンを掲げる企業は数多くあります。もちろん、多様性を抱える企業が一定の基準を持ち、方向性を持っていくことは、スピード感を持った事業推進のために必要なことでもあります。ただし、組織心理的な視点で見ると、状況が見えない不安から端を発していることがあります。

M&Aなどの結果、事業構造も歴史も違う場合、また、中途採用者などバックグラウンドが違う人が多い場合、組織ごと、組織長ごとに大切にしている考えが違うのも自然です。こうした時に抽象的に「one」を掲げても、無視された、尊重されないといった違和感を与え、組織へのエンゲージメントを下げる結果になりがちです。

むしろ違いを認め、その奥にある事情や思いをテーブルに出し切っていくことで、お互いへの理解と共感が生まれ、元々望んでいたチームとしての繋がりや一体感が生まれます。

マネジメントスタイルの相似形

トップと役員の間に起こっているマネジメントの問題が同じような形で、役員と管理職、管理職と社員の間で起こっていることがあります。

この構造は、親にされたしつけが子供の頃は嫌だったのに、いつの間にか染み付き、大人になると子供に同じようなしつけをする話に似ています。組織のマネジメントの相似系は、そのような自然な内在化だけでなく、組織理念やルールが明文化されているためより顕著になります。

裏を返せば、一番影響力の強いトップと役員の間に起こっている仕事の任せ方、指導方法、コミュニケーションスタイルなどのマネジメント問題に変容が起こると、それをきっかけに、自然と下の層へ順に変容が起こっていきます。

また、その変化のエッセンスを意識的に下の層に展開していくこともできます。その際には、答えを資料や標語にして持ち込むことはあまり効果がなく、ストーリーを語る、上下のコミュニケーションを実際に見てもらうなどの体験を通して実感してもらうことが必要です。