代表取締役社長|渡邉 淳 さん(ショーン)
取締役|中川 健二 さん(塾長)
取締役|上谷 宗久 さん(バンビ)
執行役員|本田 大 さん(JOY)
執行役員|加藤 健二 さん(パショケン)
執行役員|輿水 誠 さん(マー坊)
執行役員|泉澤 浩士 さん(和尚)

中段左側から:ToBeings児玉、マイポックス渡邉さん、輿水さん、ToBeings橋本、
上段中央:マイポックス上谷さん、上段右:本田さん)
マイポックスは1925年にドイツ・レイボルト商館の子会社として創業した後、現社長の祖父にあたる渡邉惣吉氏へ資本をバトンタッチ、その後は精密研磨材専業メーカーとして発展を経て、2000年初頭からはコア技術である『塗る』をサービスとして提供するエンジニアリングサービス(受託塗布)を開始。さらに『磨く』をサービスとして提供するウエハープロセス(受託研磨)を立ち上げ、「塗る・切る・磨くで世界を変える」に取り組んでいる会社だ。昨年11月に創業から100年を迎えたが、『100年ベンチャー』を掲げ、変化しつづける集団である。現在は渡邉淳さんがマイポックスの代表取締役社長として会社を率いている。
前回の事例紹介記事では、マイポックスの経営層の皆さんが2019年にToBeingsの支援のもとでスタートした組織開発プロジェクトを紹介した。それ以来、皆さんは自分たちで計50回以上の経営合宿を重ね、チームを成長させ続けてきたが、2025年になって「変わりにくさの壁」に直面し、あらためてToBeingsに支援を依頼した。そして2025年5月から、ToBeingsの提案で取締役+執行役員チームの関係性を楽しく変容させるチャレンジ「ペアレース」の取り組みをスタートした。本記事ではその経緯と内容を紹介する(※インタビューは2025年12月に実施)。なお、マイポックスにはお互いにニックネームで呼び合う文化があるため、本記事では主にニックネームを使用している。
外部の誰かに第三者視点から支援してもらわない限り、ここから先には進めないと感じていた



――最初に、ショーンと塾長に、今回私たちに声をかけた背景や理由、その頃の状況をお聞きしたいです。
ショーン(渡邉代表取締役社長):一言で言えば、私たち経営層のなかに閉塞感があって、全員でどん詰まりに行き着いた感じがありました。外部の誰かに第三者視点から支援してもらわない限り、ここから先には進めないと感じていました。誰かに天井からロープを垂らしてもらうというか、ゴルフのスイングをチェックしてもらうというか、医者に診察してもらうというか、そのような外部サポートが必要な状況だったのです。会社のいまの業績は好調ですが、このままではマズいという感覚がありました。
塾長(中川取締役):たとえば、経営会議や経営合宿では、社長と取締役の3人(ショーン、バンビ、塾長)が執行役員たちの不足点などを一方的に語って、執行役員が「わかりました」と言って終わるのがお決まりのパターンになっていました。話し合いの配役と筋書きが同じになっていたのです。私たち3人が語ることは間違ってはいないとは思うのですが、だからといって、執行役員たちがそれを聞いて変化できるわけではありません。それどころか、そういう説教を聞くと彼らはエネルギーが低下してしまい、かえって動けなくなります。
さらに、そのような現象が相似形となって、社内でも起こるようになりました。執行役員や管理職たちが私たちと同じように部下の不足を語り、結果的に部下がエネルギーを失ってしまうシーンを見かけるようになったのです。この悪循環を変える必要がありました。それで橋本さん(ToBeings CEO&ファウンダー 橋本洋二郎)にサポートしてもらおう、ということになったわけです。
――今回の話のポイントは、社長と取締役の3人が正しいことを言っているかどうかではありません。最大の問題は、皆さんで「役割の固定化の悪循環」にはまり込んでいたことにありました。その構造とは、取締役側は、執行役員の自立や成長を促そうと良かれと思って改善点を伝えます。執行役員側はそれを真摯に受け止めようとするほど、自信とエネルギーを失い、思考停止してより自由さがなくなっていくのです。そして、その様子を見て、良かれと思ってさらに改善点の指摘を増やしていきます。この繰り返しにより、「できる人とできない人」「先生と生徒」という関係がどんどん強化され、執行役員の自立や成長とは逆方向に向かってしまう。この構造から抜け出すためには、7人全員が相互に作り出しているパターンに気づいて変わる必要がありました。そこで、私たちが皆さんの話を聞いたうえで「ペアレース」を提案したわけですが、提案を受けたときはどう思いましたか?
塾長:私たちはこれまでもToBeingsの皆さんを信じて、その提案に乗っかってきました。今回もまったく同じように提案に乗ることにしました。
ショーン:企画プログラムを詳しく見ると、他の全員の前でペア対話をするという内容で、最初は驚きましたし、恥ずかしいとも思いました。ですが、ToBeingsが言うなら意味があるのだろうと考えてチャレンジしてみました。
上司・部下の関係から離れ、プロデューサーとタレントというフラットな関係で楽しく競う「ペアレース」

――私たちが今回企画した「ペアレース」は、社長・取締役(ショーン、塾長、バンビ)と執行役員(JOY、パショケン、マー坊、和尚)がペアになって、2025年5月~9月の約4か月にわたってペア対話(1on1)とペアチャレンジ(業務での挑戦)を続け、2人の能力が最も伸びたチームを表彰する、という遊び心をもったアクションラーニング型のプロジェクトでした。
ポイントは、社長・取締役には「芸能プロデューサー」、執行役員には「芸能タレント」という日常とは異なる役割になってもらうことでした。プロデューサーには、自身のプロデュース力(ティーチング・コーチング・メンタリング・経験学習支援などの力)を駆使して、タレントの本質的な成長に寄与してもらいました。一方のタレントには、プロデューサーを最大限活用しながら、自分の才能が花開くことを自ら全力でチャレンジしてもらいました。
このようにして日常の上司・部下の関係から離れ、プロデューサーとタレントという機能の違うフラットな関係性のなかで楽しく競ってもらうことが、私たちの狙いでした。「プロデューサー」がどれだけ厳しく改善点を指摘してもいいですが、それでタレントが伸びなかったら、プロデューサーの資質の低さとも言えます。その意味で「タレント」が花開くために双方がフラットにコミットしあえるような認識や関係性を、直感的・身体的に持てるようにしたのが、このロール設定で、それによって凝り固まった関係性を解きほぐすことがでるのではないかと考えたのです。
2025年5月に役員合宿を行い、ここではじめて「ショーン×和尚」「ショーン×JOY」「バンビ×マー坊」「塾長×パショケン」の4組のペアを組んで対話をスタートしました。合宿ではまず公開ペア対話を行い、ToBeingsがそこに立ち現れる関係性やパターンに徹底的にフィードバックして、関係性やパターンを変えるためのヒントや方向性を示しました。そのうえで、月に1度「ペア対話」を実施して、2人で「来月までに実ビジネスで●●のチャレンジをしてみよう」などと目標を定めて、実際に「ペアチャレンジ」を行った上で次のペア対話に入る、というサイクルを繰り返してもらいました。毎月のペア対話は必ず録画してもらい、私たちが録画を見てフィードバックをするという取り組みも続けました。
そして9月の役員合宿で、各ペアが振り返りながら成果を発表し、最も成長・変容したペアを表彰しました。表彰の際には、単にビジネス成果が出たかどうかではなく、両者のマネジメントスタイルやリーダーシップスタイルがどれだけ変容したか、2人の関係性がどれほど変わったかを評価しました。社長・取締役がきちんとプロデューサーになれたかどうか、執行役員がタレントとして成長できたかどうかを皆で評価し合ったわけです。
ちなみに、なぜこのようにペアを組んでもらったかというと、7人の関係性を変えるのは複雑すぎて難しいからです。おそらく7人でプロデューサーとタレントになってもらおうとしても、すぐに元の関係性に戻ってしまっていたでしょう。その点、1対1は関係性がシンプルで、変容を起こしやすいのです。上司の3人には、上司然として指導するパターンから抜け出してもらうためにプロデューサーという役割を担ってもらい、部下の4人にはタレントとなって自分の能力を花開かせることに集中してもらおうと考えました。



画像右:2回目の役員合宿では、最も成長した個人と、最も成長したペアを皆で選んで表彰した
ペア対話を始めれば、いつでもプロデューサーとタレントの関係に戻れるようになった

――(ショーン×塾長インタビューの続き)今回のペアレースで印象的だったシーンを教えてください。
ショーン:5月の役員合宿の初日チェックインの様子をよく覚えています。最初から、皆の渇望感や意欲を感じたからです。私たち2人だけでなく、全員が経営会議に行き詰まり感を持っており、何とかして現状を打破したいと思っていたことがよくわかりました。実際、全員がペアレースの企画に前向きでした。
――4カ月間のペアレースで、何がどのように変わりましたか?
ショーン:ペアレースは終わっています(※取材時は2025年12月)が、私たちはいまもペア対話を継続しています。私自身は、ペア対話の場ではいつでもプロデューサーの役割に戻れるようになりました。半年でそのような変化が起きたのは大きいと感じています。
次のステップは、社長の私がアイドルグループのプロデューサー(笑)となり、経営層全員をタレントとして育てていけるようになることだと思います。ただ現段階では、私はペア対話に入らないとプロデューサーになれません。7人となると、複雑さやダイナミズムがまったく違って難しく、経営会議などでは以前どおりの上司・部下の関係に戻ってしまいます。私がアイドルグループのプロデューサーになれたとき、会社全体が大きく変わっていくでしょう。
塾長:経営会議などで上司・部下の関係に戻ってしまうのは、おそらく複数人での対話のトレーニングがまだできていないからです。しかし、私たちは皆、ペア対話を通じてプロデューサーとタレントの関係になれることを知っていますから、これから複数人対話でプロデューサーとタレントの関係になる経験を自分たちで積んでいけば、日常業務でも少しずつ関係を変えていけるはずです。
ショーン:もう1つ印象的だったのは、バンビ(上谷取締役)が強烈に変わったことです。彼はもともと、論理的に周囲を説得して動かしながら、定めたゴールを直線的に目指す冷静沈着な戦略思考タイプでした。ところがペアレースを経て、自分自身の感情に自覚的になり、周囲に伝えるようになったのです。先日、私たちは設立100周年記念で、大切な人に感謝の気持ちを伝える「ハンドレッドサンクス」という催しを開いたのですが、その場でバンビは奥様に感謝を述べ、最終的に2人とも号泣していました。その場にいた全員が、バンビがそんなふうに泣く姿を見たことがなく、本当に驚きました。彼の変化を見ると、ペアレースの効果を実感します。


左:取締役 | 上谷宗久さん(バンビ)と奥様
右:取締役 | 中川健二さん(塾長)と奥様
――バンビは、今までの自分のやり方でないほうが部下も奥様も花開くことがわかったのだと思います。嬉しい変化です。ところで、私が初めてマイポックスの皆さんの組織開発支援に入ってから、7、8年が経ちました。最後にこれまでの感想を伺えたらと思います。
ショーン:いま振り返ると、2019年頃は私が「経営者という鎧」をガッチリ着込んで、トップダウン型の経営をしていました。橋本さんたちのおかげで、その鎧を一枚ずつ脱ぐことができました。私や経営層だけでなく、社内の空気感や文化もずいぶん変わりました。最近、他の会社に伺うことが多くあるのですが、どの会社にもある独特の空気感や文化がビジネスに直結することがよくわかるようになりました。それも、皆さんの伴走支援を受けた成果の1つだと思います。塾長:私の場合は、ToBeingsの皆さんと出逢ったことでプロセスワークやコーチング的な関わりを学ぶようになり、人生が大きく変わりました。人の可能性を本当の意味で花開かせることの面白さを知ったのです。私にとっては、皆さんと出逢ったことが貴重な財産です。
私が皆の前で泣くなんて、社内の誰も信じられない出来事だっただろう

――ここからは各ペアにお話を伺います。最初は、ペアレースで見事に優勝した「バンビ×マー坊」のペアです。2人の初回のペア対話は、私には完全に「先生と生徒」に見えました。バンビがマー坊に「こうしたほうがいい」「この本を読んだらいい」と一方的に伝え、マー坊はそれを静かにありがたく受け取るという関係性になっていたのです。悪い関係ではないのですが、問題は2人とも「先生と生徒」の立場というコンフォートゾーンにいて、バンビが熱弁を振るい、マー坊のエネルギーはいっこうに高まらないことにありました。そこで私は、そのことをフィードバックしつつ「ロールチェンジ」を提案してみました。つまり、マー坊が自分の好きなマンガやゲームをバンビに薦めたり、バンビが聞き役になってマー坊の思いや拘りを聞いたのです。そうすると、2人ともエネルギーが高まっていく様子が見て取れたので、私はその関係性でいきましょうと背中を押しました。
そこから、まったく異なる2人が、お互いの異なる長所を取り込み合って大きく変化し、4カ月後には皆を驚かせて、見事に優勝しました。そんなペアレースを経て、2人が自分たちの変化をどのように感じているのかを教えてください。
マー坊:私よりバンビのほうが大きな変化があったのではないでしょうか。
バンビ:そうかもしれません。何しろ100周年イベントで、全社員の前で泣きましたからね。妻を泣かそうとして妻に感謝の手紙を読んだら、自分が泣いてしまいました。私がそんなふうに泣くなんて、社内の誰も信じられない出来事だったと思います。取引先の人たちも驚くくらいでしたから。
つい最近まで、私は「オレがオレが」の典型例で、自分の力で結果を出し、周囲を結果でねじ伏せるのが美徳だと考えるタイプでした。バリバリ活躍するビジネスパーソンに憧れて、そういう経営者や企業家たちの本をむさぼり読んで、自分自身もバリバリ行動するようになっていったのです。ところが、ペアレースや組織開発の取り組みを通じて、相手に感謝することや皆に任せることを学んで実践したら、そのほうがうまく回ることがわかりました。私が出しゃばらないほうが、業績がかえって伸びるのです。そのような経験をして、自分なりに反省して行動や考え方を変えた結果、100周年イベントで泣くようなことになったわけです。
――バンビは、マー坊のゲーム好きやマンガ好きから影響を受けて、奥様と一緒に映画を観たり、マンガを読んで娘さんと会話するようになり、家族との関係や信頼が大きく変わったとお伺いしました。それも大きな変化ではないでしょうか。
バンビ:その通りです。むしろそれが最大の成果かもしれません。ペアレースでマー坊から学ぶ立場に立ってみたら、マンガや映画を楽しむ時間も有意義なものだと感じるようになりました。そうすることで周りへの感謝や違いを受け入れるスペースが生まれたんでしょうね。以前の私にはまったくなかった感覚で、マー坊に教えてもらいました。

――マー坊はどうでしたか?
マー坊(輿水執行役員):最初、バンビとペアを組むことがわかったときはビビりました。何しろバンビは能力が高くて、いろんなところで相手を論理的に圧倒していましたから、自分はいったい何を言われて、どのようにプロデュースされるのだろうと不安になったのです。でも結果的にはバンビのいろんな顔を見ることができて、有意義な時間になりました。
ペア対話を通して、私はバンビから、これまで私が縁遠かったものを学びました。一番変わったのは、バンビに読書とモーニングメソッドを薦めてもらい、毎朝本を読むようになったことです。読む本もバンビに薦めてもらっています。モーニングメソッドのおかげで、プライベートでも早起きするようになりました。直近の1カ月ほどは忙しくてあまり読書時間を取れませんでしたが、これからまた少しずつ読書量を増やします。また、戦略思考や行動計画の立て方も学び、仕事でもプライベートでも計画的にメリハリをつけて行動するようになってきました。
バンビ(上谷取締役):マー坊は、もともとマネジメントが上手で人望のある管理職でした。そんな彼が自分を律して読書を続け、日頃から本を持ち歩くようになって、自己主張もするようになりました。結果的に周囲からの信頼がより高まっています。
――バンビはもともとマー坊に読書や戦略思考を薦めようとしていたと思うのですが、ペア対話を通して、薦め方が変わった感じがしました。2人はペア対話でどのようなことを意識しましたか?
バンビ:おっしゃるとおり、私は最初からマー坊に読書を薦めるつもりで臨んでおり、どの本を薦めるかも事前に決めていました。ただ、ペア対話を始めてからは、マー坊にどんな人生経験があり、何に困っていて、どうなりたいと思っているのかを意識するようになりました。そして、マー坊の経験や悩みに合わせて薦める本を変えたのです。それ以前は、相手を自分の色に染めようとするばかりで、相手のことを考えたアドバイスをするのは苦手でしたから、これは私にとって大きな変化でした。
マー坊:バンビはいまの自分に本当に必要な本を薦めてくれますし、その他のアドバイスも的確です。
バンビ:おかげさまで、仕事もプライベートもいまが人生で一番良い状態です。私は副業でスタートアップ支援をしているのですが、最近は副業の面接で受かる確率も高まっています。もちろん、本業も無理することなくうまく回っています。
マー坊:私もいまバンビに倣って、副業を始めようとしているところです。副業でも自分の強みを活かせたらと思っています。
バンビ:私たちはペアレースが終わった後もペア対話を継続していて、この半年で10回以上やりました。これからも続けると思います。
ペア対話を重ねるなかで、仕事にパッションを乗せたら前向きに働けることに気づいた

――次は「塾長×パショケン」のペアです。2人の初回のペア対話は、まるで「心療内科のカウンセリング」のような空気感でした。塾長は智慧のある熟練の医者で、パショケンは彼にすがる心悩ます患者のようなあり方にどんどんなっていきました。これは、コーチング的な関わりが上手な人が陥りがちな共依存関係です。最初にそのような空気感を作ってしまうこと自体が、相手(パショケン)のエネルギーを下げてしまうのです。そして、極め付けは「あなたの軸は何?」という問いです。一見深い問いですが、それを問うほどにエネルギーが下がるのです。
そのとき、私は「良いカウンセラーを手放して、塾長がパショケンのなかから出てくる想いや言葉に火をくべて、応援したり火を大きくするような関わり方をしたほうが、パショケンの未知の部分を引き出せると思います」とアドバイスしました。そうしたら、その後のペア対話は、9割パショケンが話すようになっていました。これはすばらしい変化でした。2人は自分たちの変化をどのように見ていますか?
パショケン(加藤執行役員):私はいま「パショケン」というニックネームですが、これは「パッションのあるカトケン」という意味です。実は、ペアレースが始まる前はただの「カトケン」で、パッションのパの字もありませんでした。ペアレースで情熱が湧き出て、結果的にパショケンと呼ばれるまでになったのです。これが自分にとって一番の変化です。
塾長(中川取締役):大変化です。
――ペア対話がうまくいったことが、カトケンからパショケンに変わる原動力になったのだと思います。
パショケン:でも塾長とのペア対話は、最初はやりにくかったです。何しろ塾長は、本格的にコーチングを学んでいる対話の専門家ですから。対話しながらこちらの腹を探り、鎧を脱がそうとしてくるように感じていました。そのなかで「あなたには怒りがあるでしょう。その怒りを裏返せばいいのでは」と火をくべてくれて、怒りとかいろんなことをしゃべっているあいだに想いが溢れでてきました。
塾長:パショケンくらいの年代の男性は、多くの人が自分の感情にアプローチするのが苦手なのです。だからまず、怒りや喜びなどの感情にフォーカスして、「最近、何に怒ったか」「最近嬉しかったことは何か」に耳を傾け、そこに火をくべていくようにしました。
パショケン:私はそれまで、感情とビジネスは遠いものだと思っていました。ところが塾長とのペア対話を重ねるうちに、感情こそが大事なのだと気づいたのです。パッションを乗せたら、前向きに働けることに気づいたのです。大きなブレークスルーでした。これが「パショケン」の始まりです。それ以来、仕事への向き合い方が大きく変わりました。ペア対話だからこそ起きた変化です。
塾長:ペア対話のときのパショケンは、いつもと同じ人物とは思えないほど楽しそうに話し続けていました。それができたのは、プロデューサーとタレントの関係になることで、会社の役割から離れて、本来のパショケンの根っこ、本来の自分軸が出てきたからだと思います。あのときのパッションやエネルギーを普段の仕事でも発揮できれば、大きく変わるはずです。ただ、そこに責任やコミットメントのようなものが入ってくると、途端に重苦しくなって、パッションを解放できなくなります。今後の課題の1つです。
パショケン:今後は、せっかく「パショケン」に変わったわけですから、感情を前面に出して働くとともに、仕事における感情の大切さを部下たちに広めたいと思っています。
塾長:私はこれからも、相手と向き合い、きちんと話を聞いて受け入れることを心がけていきたいと思っています。そうやって傾聴すると、相手がどんどん話してくれるだけでなく、相手もこちらの話を受け入れてくれるようになるのです。
異様な設定のおかげで、普段の凝り固まった関係性を解きほぐすことができた

――3組目は「ショーン×和尚」のペアです。ペアレースを経て2人がどのように変わったか、2人の関係がどう変化したのかを教えてください。
和尚(泉澤執行役員):私たち2人は長いあいだ社長と部下の関係でやってきたので、部下の私はどうしてもショーンに委縮する部分がありました。少なくとも、腹を割って話ができる関係ではありませんでした。もちろん1対1でペアを組むのは初めてで、最初は緊張しました。5月の役員合宿の初日チェックインのときに、「今日は気合を入れてきました」と話したのを覚えています。
――和尚は、経営会議などでいつも自分が否定されることに怒っていて、あのときは社長や取締役に意見するつもりで気合を入れてきたのでしたね。ただ、最初のペア対話は、和尚がかなり積極的に話していたものの、和尚が熱くなる時ほど、ショーンが無意識に持論を被せて展開したりして、和尚の火に水をかけるような感じの関係性になっていました。たとえば、和尚はそのとき「自分はスーパーサブでもいいじゃないですか」と不満そうに言ったのですが、最初はあまり取り合ってもらえませんでした。
そこで私はショーンにも、和尚が熱くなってきたら、たとえ不満に見えてもそこに何かのエネルギーがあるので、火をくべてみてくださいと後押しをしました。同時に和尚には、その思いの根っこを聞きながら、「スーパーサブでいいじゃないか!」とその思いを爆発させるように関わりました。その爆発は皆に好意的に受け止められ、対話の場の空気感が一変したのです。
和尚:そのとき私は、自分がタレントとして、何を成し遂げたいのか、自分の役割や軸は何かといったことを伝え、プロデューサーのショーンに必死に売り込んだのです。その最中に自分のなかから「スーパーサブ」という言葉がすっと出てきて、腑に落ちました。自分のこれまでの行動や考えがスーパーサブの一言ですべて裏付けられたのです。皆をバックアップしたい気持ちが強いことにあらためて気づきました。
――社長や取締役は自分にエースになることを求めるけれど、自分はスーパーサブ的な存在が大事だと思っているのだから、「スーパーサブでもいいじゃないか!」と宣言したのでしたね。
和尚:それ以来、「スーパーサブが自分の役割だ」と明確に意識するようになりました。ショーンが毎月のペア対話などでスーパーサブという言葉をよく使ってくれて、私はそのたびに自分の軸を思い出しています。
ショーン(渡邉代表取締役社長):私は、それ以前は経営層との間には1対1の関係性がほとんどありませんでした。もちろん経営チームとしての関係性はありますが、純粋に1対1で向き合うことはなかったのです。なぜなら、経営はあくまでもチームで行うことであり、社長業は経営メンバーと1対1で向き合わなくても十分に成り立つからです。
今回、橋本さんから、2人でペアを組んでくださいと言われたときにはじめて、「和尚と向き合ったことがなかった」と気づきました。私は、経営層との間に1対1の関係性がないことに無自覚だったのです。和尚たちと1対1の関係を築こうと思えたこと自体が、私にとっては大きな一歩でした。
和尚:私は、プロデューサーとタレントという設定を作ってもらえてありがたかったです。自分はタレントを演じていればよく、自分の能力を活かして輝かせるのはプロデューサーのショーンの仕事、と割り切ることができたからです。タレントのマインドを持ったら、自分からどんどん発言できるようになったのです。この設定がなかったら、どうしたって社長と部下の関係に立ち戻ってしまいます。
――お二人は今回のペアレースから何を学びましたか?
和尚:実は最近、私が自組織のメンバーに対してプロデューサーの役割を担い始めました。「このメンバーはどのようなタレントなのだろう?」「このメンバーをどうしたら輝かせることができるだろう?」といった目線で一人ひとりを見るようになったのです。これも私にとっては大変化です。
ショーン:おそらく第三者から見れば、経営層がプロデューサーとタレントになりきってみるというのは異様な設定です。でも、振り返るとそれが良かったのです。私たちはその設定のおかげで違う世界に入ることができ、普段の凝り固まった関係性を解きほぐすことができたのです。これが「執行役員の皆さん、社長になって考えてみてください」というくらいの設定では、大きなモードチェンジは起きなかったでしょう。ビジネスから遠く離れたことが成功の要因だと思います。
――今後に向けたアイデアや想いを聞かせてください。
和尚:スーパーサブの意味や解釈を変えないようにすることが大事だと思っています。その意味で、今後はスーパーサブのイメージをしっかりと持ち、周囲に発信することが大事ではないかと考えています。
ショーン:理想的な社長の動き方は、9割は社長、1割はグループプロデューサーの意識を持って動くことだと思っています。これからはその理想を目指して意識を変えていきます。
社長と部下の関係から「仲間同士の関係」に少しだけ近づけた

――最後は「ショーン×JOY」のペアです。ペアレースを経て2人がどのように変わったか、2人の関係がどう変化したのかを教えてください。
JOY(本田執行役員):社長と部下の関係から、「仲間同士の関係」に少しだけ近づけたのではないかと思います。ペアレースの後、私を含めた経営メンバーは、これまでショーンが一人で背負っていた責任を分担して背負い始めています。実際にチャレンジしてみたら重くて、簡単には背負えないと感じていますが、以前は背負うつもりがありませんでしたから、間違いなく一歩前進しています。ショーンも、心なしか私たちへの遠慮が減ったように思います。
ショーン(渡邉代表取締役社長):JOYは経営メンバーのなかで一人だけ明らかに違います。他のメンバーは長年連れ添った人たちですが、JOYは9年前、買収先の企業から異分子として参入したメンバーなのです。しかも、そのときはまだ現場の係長でした。ですから、私はJOYに対しては9年前からプロデューサー的なふるまいをしてきたところがあり、今回のペアレースにもすんなりと入ることができました。私にとってはJOYとのペアはやりやすくて、和尚とのペアのほうがずっと違和感がありました。
――私から見ても、2人はもともとプロデューサーとタレントに一番近い関係でした。ペア対話を通して、さらにその先が見えてきたのだと思います。いまJOYが、仲間同士の関係に少しだけ近づけたと話していましたが、私には「遠慮のない師弟関係」というような感じに見えています。
JOY:今後は、私がインフルエンサーとなって周囲をどんどん経営に巻き込んでいきたいと思っています。
ショーン:JOYの言うとおり、いろんな人が少しずつ経営に参加するカルチャーを作っていくことが大切だと考えています。私は最近、塾長とともに「カルチャーで勝つ会社にする」と決めました。これからプロデューサーとタレントの関係性を社内中に広めて、私たちのカルチャーの1つにしようと思っています。
この6人が社長の役割を少しずつ肩代わりしようとしてくれているのが嬉しかった

――最後に1つ、ショーンに質問してもいいですか? 5月の経営会議の1日目の終わりに、めったに泣いたりすることのないショーンが思わず感極まっているシーンがありました。あれはいったい何だったのでしょうか?
ショーン:簡単に言うと、この6人が社長の役割を少しずつ肩代わりしようとしてくれているのが嬉しかったのです。社長の責務やプレッシャーを肩代わりするというのは、言葉でいうのは簡単ですが、実際には極めて難しいことです。私たちはこれまで7年、50回の経営会議を経ても、それは僅かしか進みませんでした。ところが今回のペアレースを経て、社長の役割の肩代わりが柔らかく起こり始めています。もちろん先は長いのですが、変化のきっかけを掴んだことは間違いありません。あの涙は、それをふと感じた時に流れた涙です。
――その歴史を共に歩んできたので非常に共感します。ある意味イバラの道でもあるこの7年間の旅路を、ショーンが諦めずに追い求められたのは、なんでなんでしょうね?
ショーン:(ゆっくり考えて)こういうチームが欲しいと、私自身が心の奥底で願っているからだと思います。


