「マネージャーと補佐。ふたりで学び、向き合うところから始まる組織開発」−東京海上日動火災保険株式会社様

人事企画部 人材開発室 能力開発チーム   課長代理|菊地 謙太郎 さん
人事企画部 人材開発室 能力開発チーム   課長代理|鈴木 進也 さん

(写真左から株式会社ToBeings CEO 橋本、コンサルタント児玉、東京海上日動火災保険株式会社 菊地さん、鈴木さん)

「組織開発」は勝ちパターンが通用しない時代の成長戦略

創業から143年を迎えた、日本初の保険会社である東京海上日動。外国との交易に欠かせない海上保険、さらに日本初の自動車保険を世の中に送り出してきたリーディングカンパニーでもあります。

保険は、無形のサービス。別の視点から見れば、社員1人ひとりの提供する価値がサービスそのものにつながります。予測不能で、不確実なVUCA時代を迎えた現代社会において、今までと同じようなアプローチでは成果を出し続けるのは難しい───そうした背景から、同社は、成長戦略として、組織開発に正面から向き合うプログラムをスタートさせました。

ToBeingsも組織の活性化に本質的に取り組むリーダーのための「組織活性化実践塾(OD実践塾)」にて、実践的な学びのプロセスに伴走させていただいています。

同社が直面している現状やプロジェクト内容について、人材開発室の菊地さん、鈴木さんに伺いました。

【組織活性化(OD)実践塾】

■参加者
今期で3回目を迎え、10組20名が参加しました。対象者は組織のマネージャー・マネージャー補佐。
必ずペアで参加することを条件としており、対象となる組織の課題を踏まえながら、都度内容をアレンジしています。

■特徴
体験学習・対話が中心です。新たな知識・学びは「事前動画」の視聴によって習得。
その後の「Zoom研修」で対話・体験を通して学びを深めます。さらに各部署に戻って仕事を進める上で実践。
組織開発コンサルタントが伴走しながら、組織活性化につながるテーマについて見つめ直します。実施期間は4ヶ月です。

■目的
マネージャーとマネージャー補佐の2名が参加することで、組織に対して現場で見えている景色・課題について話し合う機会も多くあります。
その中でお互いの本音を知り、自分自身と組織の関わり方について考え直す「変革の原型」が生まれます。
上司と、その右腕となる部下との関係性の変化によって、組織活性化を目指していくことが1つのゴールです。

OD実践塾は、組織開発のカギとなる施策

―― まずは「OD実践塾」を始めた背景、御社の現状について教えてください。

菊地:大前提として、当社は人の力を原動力とする “People’s Business”。人と人との繋がりの中で、仕事をしているため、社員個人の成長はそのまま会社の成長へと直結します。

上場企業である以上、利益も追求していかなければなりません。さらに地域の発展につながる貢献も、ミッションの一つ。結果を出していくためには、そこへ向けたチームの関係性・空気感・場を活性化させていきたいと考えていました。

当社は左脳型のロジカルで真面目な人材が多く、感覚的・概念的な学びだと「モヤモヤする」で終わってしまう可能性があります。一方で、ロジックやフレームワークのみで進めていくと、わかりやすくてすっきりはするけど、複雑な組織課題の解決には辿り着けない。そういう意味では、ロジックだけでは本質にリーチできないのではないかと思いました。

人と組織における複雑な課題に対し、必要な知識・スキルも得ながら、しっかりとそこにあるモヤモヤすることと向き合いつつ、参加者同士がともに育みあえるプロジェクトを形にしていきました。

※一般的には、組織全体への影響力が大きく、活用しやすい「診断型組織開発(サーベイ活用)」を導入し、検証していくスタイルが多く見られます。ToBeingsはさらに一歩先にある「感情」「深層心理」「身体感覚」などの、目に見えない部分にも踏み込んだ組織開発を実現しています。

―― プロジェクトがスタートしたのは2019年。社会情勢も大きく変わりましたね。

菊地:働くことへの価値観、個々人にあった多様性が認められるようになってきました。見えにくかった多様性が表出しただけ、とも言えるでしょうね。

一方でDX化や金融緩和による自由競争が進み、今までの価値提供が通用しなくなっています。これは、保険業界でも同じです。このままではレッドオーシャンの海で、転覆してしまいます。だからこそ「今までにない発想」が重要であり、組織開発が必要になってくるんです。

そのために人事ができることは、現場の社員に寄り添うことだと考えています。ToBeingsさんが仰るように、「変える側=会社/経営」「変えられる側=社員/現場」という固定観念から脱却し、1人ひとりが自ら変化を生み出す担い手になってほしい。そのための、「壁打ち相手」を目指したいと思っていました。

人事企画部 人材開発室 能力開発チーム 課長代理 |菊地 謙太郎 さん

組織の中に眠る「パンドラの箱」を開くプログラム

―― 「組織活性化実践塾」の狙いや概要について教えてください。

菊地:「こうやれば成果が出る」という勝ちパターンは、もはやなくなってきています。今までと同じシステムで仕事と向き合っても、現場は疲弊していくだけです。「OJTを強化して、育成していこう」とした時期もありましたが、どうしても育てる側と育つ側の構造が生まれ、上位下達が強くなってしまいます。そこで全員が育てる側であり、全員が育つ側、すなわち共に育つ、共に育てることを目指し組織開発を人事として意識的にやる覚悟を決めました。

「組織活性化実践塾」は、正解や近道を提供するようなプログラムではありません。残念ながら、やればやるほど、スッキリせずにモヤモヤするんです。

当社の組織規模から考えると、1人ひとりと向き合い、個別支援していくスタイルは時間もコストもかかります。しかし診断型サーベイで出てくる良い結果だけを見て喜び、現場の苦しい悩みはすべて「パンドラの箱」(※)につめてしまう・・・それが現場のためになっているのだろうか。組織変革の核となる部分は、その箱の中にしかないと思ったんです。

※パンドラの箱・・・「触れてはいけないもの」の例えで、ギリシア神話に由来する。人類最初の女性パンドラが、世界のあらゆる災いが詰まっている箱を好奇心から開けた結果、地上に災いが飛び出したが、急いでふたをしたため、中には希望だけが残った。

鈴木:「OD実践塾」の具体的な内容も、初めて見るものばかりでユニークでした。参加しているのは、現場で「目標達成を阻んでいる理由を振り返ろう」と日常ではロジカルに考えているメンバーばかり。そんな中で、上司―部下のロールプレイを通じて、その場にある感情や起こりつつある変化などを目の当たりにし、頭だけではなく、「この場にあることを感じ取ろう」と変化していきましたね。

菊地:実際に参加者からも「いい意味で、予想と違いました。参加してみれば分かりますが、モヤモヤが深まります」と声が上がりました。また、上司と、その右腕的存在の部下2名がペアで参加してもらうことも、特徴的ですね。理想はみんなでパンドラの箱を開けること。「今ここで何が起きているか」を感じ、一歩踏み込んだ対話をしてほしいと思いました。

株式会社ToBeings CEO 橋本

鎧を脱いだマネージャーと補佐。新たな関係で組織変化の入り口に立つ

―― 3期を終えた今、率直な感想についてお聞かせください。

菊地:マネージャーと補佐がペアで参加している中で、「マネージャーって、実はこんな悩みを抱えていたのか」と補佐が気づき、2人の関係性にも変化が生まれていく様子がとても印象的でした。ここ3年間で時代も大きく変わり、「勝ちパターンが通用しなくなっているな」と実感している現場は多かったと思います。それなのに、なぜ上司が踏み込めないのか。組織の中で何が起こっていたのか、分かってきたようでした。

鈴木:今回、部下から上司を誘ったペアも多かったですが、相当な勇気が必要だったと思います。「組織内に何らかの課題がある」と感じて、声をかけているわけですから。また「上司は最後の砦」と考えて、上司を最前線に引っ張り出すことに抵抗を感じる部下も少なくありません。

そんな中で、上司が即興役者の方に部下役をお願いして、ロールプレイで1on1をしている姿を見たり、対話したりするわけです。上司が失敗している様子も、擬似体験を通じてリアルに感じられます。さらに雑談できる場もあって、お互いに向き合うチャンスもありました。

誰がいけないとか、組織のここがダメだとかを指摘するのではなくて、あくまで人と人の間に流れているモノに、アプローチしていく。そこに触れられた手応えを感じました。

菊地:現場が変わったかどうかは、正直、人事や経営者だけで語っていても何も分かりません。「組織活性化しよう」という言葉の先には、茨の道があります。きれいごとだけでは、何も変わりませんからね。学んだことを自分たちの組織に落とし込んでいくには、非常に時間も労力も必要です。だからこそ、人事の伴走が必要です。大規模な施策として進め、単にエンゲージメントスコアを上げることが目的になっては、結局何も変わらない。時間がかかってもいいから、うねりを起こして渦にしていきたいと思いました。

継続して行なうことで「パンドラの箱を開けたら、大変だったね」と笑い合える仲間が全国に増え、「やっぱり開けないとダメだよね」と言えるコミュニティになっているかどうか。そんな人材が過半数を占めるようになれば、勇気づけられる人も増えてくるでしょう。目を背けずに、10年ぐらい続けて初めて成果が出たかどうかが分かると考えています。

人事企画部 人材開発室 能力開発チーム   課長代理   |鈴木 進也 さん

理論に加え、当事者の経験が学びの背中を押す

―― どのような狙いがあって、ToBeingsをパートナーに選んだのでしょうか?

菊地:大手企業が手がけている人事施策や研修は、スピード感もあるし、分かりやすいものが多いです。でも、本質にたどり着けているかという観点ではインパクトや実効性にどうしても欠けます。私の場合は、最初に橋本さんとのご縁があって「組織開発」の世界に触れ、その世界の可能性とともに、難しさや言語化できない部分、体感でしか表せない気持ち悪さも知りました。

理論や実践において深淵さのある「組織開発」の分野において、現場のリアルに落とし込んだロジックで語れる。なおかつ知識・スキル・経験を踏まえたアドバイスもできる。その両軸を兼ね備えながら、当社の事業と組織を深く理解してくれました。2009年からの長いお付き合いが活かされたのではないでしょうか。

現場組織の状況をベースにした課題を指摘していただき、変化の可能性についてもフィードバックをしてくださって、ありがたかったですね。マネージャーの成長にとって必要な関わり方を、率直にしていただけたと思います。

机上の空論ではなく、リアリティのある、現実のナマモノを扱っているToBeings。だからこそ、信頼を寄せています。言行一致を目指して、これからは人事としても「パンドラの箱」を積極的に開け、箱の底にある希望を取り出さないといけないですね。

株式会社ToBeings コンサルタント 児玉

―― ToBeingsへのメッセージがあれば、お願いします。

菊地:私たちは現場にとって鏡のような存在でありたいため、何かを変える立場ではありません。そこに一緒に伴走していただくパートナーだからこそ、苦労も絶えないでしょう。快諾してくださっていることには、感謝しています。

「今ここ」を大切にするところから入り、組織開発を実践していくハードルも高いですよね。従業員規模は1万人レベル。組織の感じている温度感、社員1人ひとりの意識もバラバラです。そうしたチャレンジングな環境に対して、一緒にワクワクしていきたいですね。