「新コマーシャルリーダー養成塾」は、研修の枠を超えて、未来の東京海上日動を創っていくプロジェクトになりました

組織の中核となる次世代リーダーが、正解の無い「強い人材を永続的に輩出する組織づくり」の試行錯誤を通して、自ら組織貢献への信念を固めていく。こんなところから東京海上日動の強さは継承されていくのだろうなと強く思いました。

導入事例:東京海上日動火災保険株式会社 様

東京海上日動企業営業部門が実施した 2013 年度及び 2014 年度「新コマーシャルリーダー養成塾」は、「強い人材を永続的に輩出する組織づくり」をテーマに、次世代リーダーを育成する実践型プロジェクトでした。受講生の内面に火を灯し、リーダーとしての覚悟を育む新コマーシャルリーダー養成塾の取り組みについて、東京海上日動企業営業開発部企画グループの五味担当課長(写真左)と栗澤様(写真右)に詳しく聞きました。

「新コマーシャルリーダー養成塾」の概要について

企業営業開発部の位置づけと、五味様・栗澤様のミッションについて教えてください

弊社の営業は3つの部門に分かれます。私の所属する企業営業開発部は、企業営業部門の人材育成と、働き方・役割の変革を担っています。マーケットから選ばれるための組織力を最大化していくための企画・推進が私のミッションです。

ーどのような背景で、新コマーシャルリーダー養成塾を導入されたのでしょうか?

近年、お客様のビジネスが多様化し、さらに経営の変革スピードが早くなっています。法人営業を担当している我々は、従来通りの損害保険商品を販売することだけではお客様のニーズに対応しきれなくなってきました。

そこで、お客様のビジネスに寄り添って、お客様のビジネスの成功を支援することをミッションに営業活動をするようになってきています。そこからさらに、お客様すら気づいていないビジネス上の課題に気づき、解決策を提示できる人材の育成を目指しています。

ところが、そのような人材を育てるのはそれほど簡単ではありません。そもそも今まで以上にお客様の問題解決をしていこうとした時に、社内にも社外にも正解のやり方があるわけでは無いからです。さらに、職場では以前に比べダイバーシティが進み、ジェンダーの差がなく役割が付与されるようになるなかで、どう人を育てていくのかも過去の延長線上のやり方が当てはまらなくなっていきました。そこで、現在の状況のなかで、どうしたら現場で人が育つ力や環境を創り出せるのか、正解の無い試行錯誤が必要とされていました。

「新コマーシャルリーダー養成塾」とは、どんな研修だったのでしょうか?

ー新コマーシャルリーダー養成塾の位置付けを教えてください

新コマーシャルリーダー養成塾は、「強い人材を永続的に輩出する組織づくり」をテーマに、受講生自身が所属部門で必要だと思う、「職場を変える」取り組みを、半年かけて企画・実践するアクションラーニング型のプログラムです。

対象は、全国から選抜された次世代リーダーである課長代理クラスです。半年の間に 3 度の集合研修があり、研修と研修の間に受講生が職場で「強い人材を永続的に輩出する組織づくり」のために必要なアクションを実際に起こす内容です。

このテーマになった背景は、そもそも先ほど申し上げた状況の中で、「現場で人が強くなるにはどうすればいいのだろうか」という課題意識がありました。そこから関係者と議論を重ね、そのためには結局「組織が強くなる必要がある」という結論に至りました。ただ、「強い人材を永続的に輩出する組織づくり」というコンセプトは、最初から明確に言語化されていたわけではなく、2013年度の受講生と事務局が熱く議論をしながら生み出されてきた言葉でした。

受講生と事務局が議論をしながらコンセプトを創ったのですか?

はい。元々は企業営業における「強みの継承」をテーマにスタートしました。ところが、全ての受講生が総論では「強みの継承は大事だ」と言いつつも、当たり前ですが、必ずしも皆がそれに熱くなったり、行動をする訳ではありませんでした。

そこでは ToBeings さんが、うまく議論を活性化してくれて、本音のぶつかり合いが始まりました。「そうは言っても現実は難しい」という声が出たり、「そもそも強みの継承がなぜ必要なのか?」という問いや、「本当にこのまま行ったらどうなるのか?」という問いに、事務局も一緒になって、思いっきり対話した結果、「強い人材を永続的に輩出する組織づくり」というゴールは絶対に必要だし、やりたいよねという声が皆から浮かび上がってきました。

従って、途中からそれを共通のテーマとした時、受講生の本気度や目線が大きく変わった感じがありました。自分たちで作ったテーマですから、やはり本気になりますよね。

ーそのテーマに基づき、どんなことに取り組んだのでしょうか?

具体的な取り組みは、そもそも正解の無い取り組みですし、部課毎に状況も違うので、受講生に任せました。「強い人材を永続的に輩出する組織づくり」という目的を達成するために、ある受講生は自部門の強みを再定義しました。また別の受講生は、経験学習のモデルに基づき、新しい案件獲得のプロセスを通して、若手が学ぶ仕組みを作りました。

従って、どんなアウトプットが最終的に生まれるのか予見できません。企画側が一方的に押し付けるプログラムではなく、我々にもレールはありませんでした。重要なことは、この正解が無い「強い人材を永続的に輩出する組織づくり」というテーマを、受講生一人ひとりが本気で考え、自分なりの実践と内省を通して、自分なりの意味付けを見出していったことです。

ーなぜ課長代理なのでしょうか?

「リーダーになる前に擬似リーダーの経験をいかに積ませられるか」が根本の思想にあるからです。課長代理の彼・彼女らを、将来組織のリーダーである課長に任命したからといって、すぐに課長としてリーダーシップを発揮できるわけではないだろう、という課題意識がありました。

なぜなら、課長代理までであれば、がむしゃらに成果を追及し自分自身の活躍だけを実感していればよかった立場であると言えます。一方で課長となると、自分も成長しつつ同時に組織への貢献を高めていくことが強く求められます。この違いを早い段階で感じさせたいと考えました。

また、リーダーになると「向こう側」の人になります。つまり、管理職としての権限を持ち、権限で人を動かすことができますが、腹を割って本音で語り合うような「安全な場」を作るのが難しくなってしまいがちです。一方、課長代理は「こちら側」の人で、権限を持ちません。権限を持たないからこそ、権限以外の方法で、人を巻き込む力を求められます。

課長代理クラスは、本音で語り合うような「安全な場」を作りやすい立場だと言えます。どうやって本音ベースで話ができるのか、本音で話すとどんなインパクトがあるのか、そういう経験を早くさせていきたかったため、新コマーシャルリーダー養成塾では、課長代理を対象としました。

新コマーシャルリーダー養成塾を通して、課長代理層にどんな経験を積ませたかったのでしょう?

組織に何らかの好影響を与えていく自覚ですね。会社員人生を長い目で見た時、入社直後は右も左もわからないところから始まります。周囲のサポートを得ながら経験を積むことで、だんだん自律的に仕事ができるようになります。自律的な仕事ができるようになった後は、仕事で得たものを組織に還元し、部下・後輩に継承していってほしいのです。新コマーシャルリーダー養成塾では、この組織への貢献を早い段階で経験させたいと考えました。「そろそろ、組織への貢献が必要な年次だよな」って周囲から言われてからわかるのではなく、受講生自身が様々な活動を通して悩んだり内省をしながら、自ら覚悟を決める経験を積ませたかったのです。

また、正解のないプロジェクトを経験させたかったという面もあります。そもそも、今回のテーマは当社だけではなく、昨今の日本の多くの企業が、急激な環境変化のなかで抱えている課題で、正解や方向性も必ずしも見えていないと思っています。そういった課題に、正面から試行錯誤を通して取り組む経験もさせたかったのです。

受講生にはどのような変化がありましたか?

ー受講生が途中から自分事となった理由は何でしょうか?

今までの研修スタイルで実施しなかったことが一番の理由です。企画側としては、従来の研修のように予めアウトプットを予見できるものや予定調和的にできるものだと運営しやすいわけですが、先ほど申し上げたように、こちらが挙げたテーマに対して、受講生の中から生まれてきた言葉や意味づけを大事にしたことが大きな理由だと思います。

さらに、自分たちの実力に直面したことも一つの理由だと思います。受講生は当初は「答えがない世界であっても自分は動いていくことができる」と思っていたふしがありました。ところがいざ、取り組んでみると、忙しさや年次、経験を口実になかなか動けなかったのです。そんなところに不甲斐なさを感じていた一人の受講生から私たちに「俺たち、いけてないならそう言って欲しい。他の期と比べてダメならダメだってはっきり言って欲しい」と言われました。

彼自身、相当悔しかったのだと思います。「表面だけ取り繕っていることに自分たちも気づいた。気づいていたけど、それを認められなかった」なんて言う受講生もいました。こうした彼らの内面を受け止めて安全な場をつくり、その上で職場の事実や周囲の声に直面する対話を行いました。その結果、「正解は見えないが、自分たちがなんとかしないといけない」という思いが浮かび上がってきました。受講生にスイッチが入った瞬間です。

五味様・栗澤様から見た、研修前、研修中、研修後の受講生の変化はどうでしょうか?

受講生がだんだん発言を躊躇しなくなりました。当初は、自分の発言が当たっている、当たっていないといった企画側の意向を伺っていた受講生が、徐々に「自分はこう思う」、「自分の部署であればこうする」と自分の信念から発言するようになってきました。

「テーマが腹落ちしない」と取り組みに二の足を踏む受講生に対し、ある受講生から「本当にそのレベルでいいと思っているのか?」というようなチャレンジする言葉が出てきました。企画に対して後ろ向きな発言が出にくいのはもちろん、それ以上に、そういった同志にチャレンジするような言葉はさらに出にくいものです。そういった声を出す勇気が伝わったことで、呼応するように他の受講生の発言も変わり始めました。

さらに、新コマーシャルリーダー養成塾を通じて、受講生は自分が組織に影響を与えられるという実感を持つことができました。組織と自分との関係の捉え方と言えるかもしれません。「会社から用意された場で、いかに活躍するか」ではなく、「自分たちが思う未来に向かって、自分たちで場を作って活躍していく」そんな変化が生じていたと思います。

新コマーシャルリーダー養成塾を実施しての、率直な感想をお聞かせください

組織の中核となる次世代リーダーが、正解の無い「強い人材を永続的に輩出する組織づくり」の試行錯誤を通して、自ら組織貢献への信念を固めていく。こんなところから東京海上日動の強さは継承されていくのだろうなと強く思いました。

不思議なもので、仕事を自分なりに意味づけし、信念を固めていく過程を楽しめるタイプの人間がいる一方で、もともとポテンシャルはあるとは思うけど、なかなかできない人間もいます。後者の人間が、新コマーシャルリーダー養成塾を進める中で、意を決して行く姿が伝わってきたのも印象的でした。

受講者の中には、若くて問題意識の高いメンバーに触発される人もいました。会社員の根底にはどこかしら競争意識があるのだと思います。企画サイドが競争意識を求めて変化を促したのではなく、健全なライバル意識が刺激され、結果的に自分たちが変わることに繋がっていたのかなと思います。


新コマーシャルリーダー養成塾は、大まかなテーマこそ決まっていますが、具体的に何をやれとは言いません。一般的な研修にありがちな、「施す側」と「施される側」という枠組みがないプロジェクトでした。この垣根を取っ払ったからこそ、受講生が組織の中でとるアクションの質が高まりました。

そして、彼らが自分たちでお題を決めた以上、他責にできない環境だといえます。自分がなんとかしないとどうにもならないのに、周りが動かない。そこに苛立ちや緊張感がありました。他責にできないことがリーダーに求められる一つの要素だとすれば、そういうのも相まって「リーダーとはなんぞや」を考える絶好の機会だったと思います。

ToBeingsをパートナー企業として選んでいる理由は?

ー5年間に渡りToBeingsをパートナーとして選んでいただいているのはどんな理由からですか?

当社の課題を当社と同じ次元で理解しようとしてくれているからです。そして、課題に対する取り組みも私たちと同じ次元で真摯に、そして楽しみながら取り組んでいただいています。

また、人の変化や組織の醸成を直接施すのではなく、黒子に徹しながら、受講生一人ひとりを、いわば「なまもの」として扱ってもらえること。そこが普通の研修会社とは決定的に違います。

それが故に、毎回の集合研修の時に扱う課題や、実施する内容を受講生の状況に合わせて用意していただくのですが、その「四次元ポケット」(笑)には感心しました。例えば、受講生が部下との本気の関わりが課題だとなったら、その部下にそっくりなりきる即興役者さんを連れてきて、皆で本気で関わる練習をしたのも、楽しい思い出です。

ーToBeingsに依頼して良かったことはなんでしょうか?

受講生一人ひとりとダイレクトに関係を作ってくれることですね。受講生という集団ではなく、一人の人間として真摯に向き合っていく。だからこそ、表層的な発言があったら許さない。

かといって、叱るわけではなく、表層的な発言があった時に、問いを投げて深掘ってくれる。このファシリテーションの力が秀でていました。組織や人という「なまもの」を扱うならば、表層的なところだけ扱っていたら誰も本腰を入れませんよね。ToBeingsさんは、一人ひとりの本音や内面を丁寧に扱っていただきました。

ー最後に、ToBeingsへのメッセージをお願いします

我々と同じレベルで一緒に課題を考えてくれる思想が非常に頼りになる、心強いパートナーでした。その強みを引き続き昇華して、当社を始め同じような課題に取り組む皆さんに還元ください。御社の社名が全てを表していて、「ありたい姿(ToBe)にフォーカスすること」これが強みなのかなと思いました。