コラボセミナー開催レポート(flame限定記事)

コラボセミナーについて

組織進化にまつわるホットなテーマを探求する「対話型セミナー」

「組織進化の実践者の方々と一緒に、何かできないか」──との思いでスタートしたコラボセミナー。実は昨年も、0期生の小金さん(こがねん/株式会社ZOZO)や1期生の永井さん(ネオさん/アイディール・リーダーズ株式会社)とともに実施していました。

昨年のセミナーレポートはこちら!

組織開発を進めていく上で、どうしてもぶつかってしまう壁や、組織内でスケールさせていく方法について、現場で直面した”生の声”を発信。多くの参加者の方にご好評いただきました。

今年は「例年とは違った方法を試してみよう」ということで、少人数・招待制で実施。パネラーにはHRBP、人事として日々活躍されている方をお招きすることになりました。

5月11日には第2回目を開催!初参加の方もおり、ToBeingsの雰囲気を味わっていただきました。

NECと積水化学で起こった「組織変容」とは

今年度第1回目のコラボセミナーには8名が参加。1期生、2期生がともに学び合えるよき時間となりました。

【セミナー概要】

●	チェックイン(今の気持ち・期待していることをシェア)
●	パネラーの方々の自己紹介
●	パネルディスカッション:現場の組織変容をいかに起こすのか〜企業人事とHRBPの視点から〜
      ○	御社orご担当領域での現在地は?
      ○	一番の難しさや足を止めるポイントは?
      ○	今後の変化の芽や可能性があると思ったことは?
●	質疑応答
●	チェックアウト

企画実現までのウラ話も話しながらチェックイン

まずは参加者からひと言ずついただき、チェックイン。モデレーターのちょりさんからは、この企画が生まれた背景についてもお話いただきました。実は4月に入ってすぐに企画を立ち上げたそうです。

ちょりさん

人事として現場の活性化にゴリゴリ、ガシガシ入ってこられたお二人の話を聞いていくうちに、「現場での様子を赤裸々に話していただいたら、みなさんにとっても面白いことになるのでは」と思いついてしまいました。

イチローさんとアキさんに早速声をかけてみると、「私の経験で役立つならば…でも緊張しますね」との返事が返ってきたとのこと。早速セミナー開催の企画を立ち上げ、開催の運びとなりました。

今回のパネラーは2期生!イチローさんとアキさん

まずは、NEC(日本電気株式会社)でCoEとして活躍されている中島一朗さん(イチローさん)から、改めて自己紹介です。

NECに新卒入社して以降、一貫して「人事」のキャリアを歩んできたイチローさん。HRBPやグループ会社のHR、CoEなどの経験を積み、現在は「HR Transformationグループ」で10名ほどのチームを率いています。同じキャリアを歩み続けるのは、業界としても珍しいことではないそうです。最近はジョブ型人材のマネジメントへシフトしているNEC。現場の社員の変革サポートや、提供するサービスの変遷について一緒に考えながら、組織変革を進めていく役割をになっています。

<参考情報>
※CoE・・・Ceter of Expertise(CoE)の略。採用・人材開発・評価・報酬等の人事における専門領域のエキスパート集団。制度やプログラムの企画など専門性の高い業務を通じて、HRBPが現場で担う問題解決を支援する。
※HRBP・・・事業・機能部門のトップ等の経営幹部に対し、組織・人事課題の相談や解決策を提案する役割を担う。現場での人事課題解決に向け、実行策を推進していく存在。

さらに、積水化学工業株式会社 高機能プラスチックスカンパニー 人事担当の平賀晶子さん(アキさん)からも自己紹介がありました。

積水化学工業はカンパニー制を導入しており、「住宅カンパニー」「環境・ライフラインカンパニー」「高機能プラスチックスカンパニー」の3領域に分かれています。アキさんが所属している「高機能プラスチックスカンパニー」では、積極的にグローバル展開をしており、自動車のフロントガラスを守る中間膜で世界シェアトップを誇っています。

アキさんのファーストキャリアは、事務アシスタント。営業所のアシスタントから始まり、工場のバックオフィス業務、工場長秘書、人事などを経てきました。現在は、カンパニー人事として、事業部長・役員とともに、人事制度の運用や魅力的な組織づくりに取り組んでいるそうです。「組織開発オタク」としてもさまざまな学びの場に顔を出しています。

HRBPや人事として組織課題と向き合ってきたふたり

パネルディスカッションを進めていくにあたり、3つの問いが立てられました。パネラーのお二人には自由に答えていただきながら、対話を深めていただきました。また、参加者の感想・質問などはチャットに記載していただき、後ほど取り上げていく流れを取りました。

その中でも、特に印象的だったやり取りをピックアップして、一部ご紹介します。

──「現場での組織変容を起こしていく」という意味においての御社orご担当領域での現在地は?

イチローさん:

今の人事改革は、2018年から始まっていて5年経ちました。5年前に何が起こったかというと、人事の執行役員に外資系企業の日本での責任者をやっていた方が来られて、トップになりました。ほぼ同じタイミングで、何人かの担当役員も外資系グローバル企業の経験者が就任し、「トップとしての変革を本気でやるぞ」とメッセージを発信。「カルチャーを変えていかないと組織も変わらないし、事業成長にも至らない」という声とともに改革が始まったんです。

実は2017年から3年の中期経営計画を作ったのですが…2018年に改めて計画を作り直しました。

カルチャー変革の中には、ダイバーシティ、スマートワーク、ジョブ型人材のマネジメントなどの取り組みも含まれています。改めて振り返ると、まさにジョブ型人材マネジメントにずっと取り組み続けてきています。 そういう意味では、「この3年ぐらいの間でカルチャー変革を実現する」というのがお題目としてあります。

──御社の中で、実際にどのような「カルチャー変革」があったと捉えていますか?

イチローさん:

当社ではメンバーシップ社員の9割以上が新卒入社で、部門も大して変わらずにキャリアを形成していきます。ある意味、文化が同じ会社だったわけですけれども、執行役員のようにキャリア採用で入社してくる方がどんどん増えてきました。この1年でも、新卒採用:キャリア採用の割合は、半々です。

そうすると突然知らない人が上司や仲間になったりする。これをどう受け止めるのかで、良い変化もあれば、コンフリクトもたくさんあった。これが現場で、起こっていることでした。

──アキさんの場合は、いかがでしょうか?

アキさん:

私の場合は、カンパニー人事なので基本的にはカンパニー内の話になります。現在、「Vision 2030」という長期ビジョンが掲げられていて、「2030年までに社会課題を解決していこう」と大きく舵を切りました。社会課題の解決につながる製品開発を明文化し、ESG経営を中心にして売上2兆円へと倍増させる。そうした大きな目標を掲げています。そのため今まではチャレンジしていなかった事業領域にも投資し、製品開発やプロジェクトの立ち上げが起き始めています。

ビジョンステートメントとして「Innovation for the Earth」を掲げ、ビジョンに向かってみんなが取り組んでいくために「挑戦行動」を奨励する組織風土を目指しています。3年前から「挑戦行動」をKPIとしてエンゲージメントサーベイで測っています。私のミッションは、高機能プラスチックスカンパニーの中で、挑戦行動がどんどん発揮できるような組織風土を醸成していくことです。

──従業員の皆さんは「挑戦行動」について、どのような反応だったのでしょうか?

アキさん:

積水化学は昔から「挑戦」に対して寛容で、特に高機能プラスチックスカンパニーは、事業的にもスピード感が求められ、わりと熱心に仕事を進めていくのを好む風土があります。年齢、役職に関係なく「やります!」と手を挙げた人にどんどん権限移譲をしていきます。外部の方からすると「え!」と思われるほどの意外な権限移譲もされていると思います。

会議中やちょっとした飲み会の場でも、「あなたはどうしたいの?」「どんな目標達成がしたいの?」と役員や上司と話し合えています。だから改めて「挑戦行動をしよう!」と言われても、もうすでにやっている状態とも言えます。

「これ以上、何をやったらいいんだっけ?」と、現場の従業員は戸惑いを感じているという声もあります。ちゃんとロジックが通っていれば投資もしてくれます。私自身も秘書から「人材課長、やってみたら」となっているわけですから。

──現場の組織変容を支援する上での、一番の難しさや足を止めるポイントについてお聞きしたいと思います。まずは、イチローさんが向き合っていた「カルチャー変革」ですが、どのあたりに難しさがありましたか?

イチローさん:

同じような環境の中でキャリアアップし、組織を担ってきた社員たちにとっては「自分達の組織が絶対に正しい」という揺るぎないものを持って、お客様に向き合っているんです。

そこに「この事業をやってみたい。このポジションで働きたい」という人が来て、全く違う価値観で事業・仕事に向き合っている姿が、受け入れられないというか、そもそも言葉が理解できないんですね。現場はかなり混乱していましたし、悩める状況がしばらく続きました。

やっぱり、全く違う景色を見ている訳なんですよね。同じものを見ていそうで異なる「見えている景色の違い」はどこから来ているのか。それを会話を通してどう気づいてもらうか、どう作っていくのかを常に意識していました。少しずつメリットが見えるようになってきてから、変わってきたと思います。

要するに、キャリア採用された社員からすると「言葉になっていない暗黙のルールがたくさんある」と感じるわけです。しかしそういう状況になっていることに、以前から長くいる社員は全く気がつかず、「なんで話が通じない人材を採用したんだ」となったりします。日常のあらゆる場面、仕組みがそうなっているので言葉で説明しなくてもなんとなく理解できてしまうんです。新卒入社の時からインプットされて、理解してきた方が多いので。

そういったところを、どうやって途中から入ってくる人にも分かる職場にしていくのか。またお互いに分かり合えるように、何が分かっていて、何が分からないのかに気がつく必要がありました。

──アキさんはいかがですか?組織風土やカルチャーに関する課題は、一見するとなさそうな雰囲気ですが、難しさを感じることはありますか?

アキさん:

あります、あります。強みも強く出すぎると、弱みになるというか。腕っぷしの強い人ばかりになってしまうというか。自分でどんどん進めていって、本当にやりきってしまうんですね。なので古い時代の働き方というか、「寝ないで頑張ります!24時間戦っていこう!」みたいな人が、活躍していくことになるんです。

社内には「あいつ、昔は本当に生意気だったよな」と言われる社員が山ほどいて、私もそのひとりですけど、若い頃から「それは違うんじゃないですか?」「私はこう思う!」とはっきり意思表示して動ける人がたくさんいます。そういう人は、やはり自分と同じようなタイプを好みます。「いいからやってみろ!」と言われて進め、失敗しても自分なりに考えて再チャレンジを繰り返すわけです。とても良いことでもありますが、その一方でひとりで進めてしまい人の意見をあんまり重要視しない傾向もあります。

例えば外部のコンサルタントの意見を聞いたり、外部の研修に参加したりする際にも良くも悪くもクリティカルすぎる態度で臨んでしまいがちになります。昔から外部の方と接することを好んで動いてきた私としては、それで本当にいいのだろうかと、思うんです。

もっと多様性であるとか、他の人の意見に耳を傾ける大切さが必要だと思う反面、そうではない組織文化の中で多くの従業員がキャリアアップしてきた現実があります。さらにはそういった成功体験を、経営陣はじめ上司層はわりとみんなが持っています。ゆえに、近年入社してきた若手層との世代間のギャップがあるのではないかと思っています。

チャットに次々と書き込まれる参加者の本音

具体的な事例も交えながら、どのような取り組みを進めてきたのかについて語られる90分となりました。チャットには質問・感想がタイムリーに書き込まれ、コメントを随時拾いながら参加者とパネラーが対話をする機会も設けられました。いくつかを抜粋し、ご紹介します。

<質問>

痛みを伴うカルチャーの変革を「やらないといけない」となったのは、なぜなのでしょうか?

イチローさん:
2011年頃から、弊社のトップは「カルチャー変革」が組織課題だと思い始めたそうです。NECの中で携帯事業からの撤退や大規模なリストラなど、組織再編があって「NECの存在意義とはなんだろう」とみんなが分からなくなっていました。

地を這うような業績の中でも、「会社の存在意義を考えよう」という議論を何度も繰り返しました。パソコン、携帯、スパコン…そうした事業がどんどん価値を失っていく中で、「事業のことだけを考えても何も変わらないんじゃないか」と、社長が思ったわけです。カルチャーというものが、事業を育てる環境自身を阻害しているんじゃないか。そういうストーリーが背景にありました。

あきさんが、これでいいのか、と気になっているポイントが知りたいです。

アキさん:
なんか、この先ますます複雑性が増して行く世の中で、このままではうまくいかなくなるんじゃないかと思っているんです。上司層には同じようなタイプが多く、エネルギー量が多いため結果、パワーで押してくる印象を相手に与えてしまうというか。

結局、どこの会社も同様かもしれませんが、この文化の中で育っていくと“再生産”されていくのではないかと思うんです。「多様性、ダイバーシティ、女性活躍」と言いながら、弊社の文化ではどれも達成できないなという感じがしてしまう。

強みを発揮し、カンパニーとしてこのままやっていっても良いじゃないか、という考え方や動きもあると思います。それで成果が出ていれば良いと言い切る経営陣もいます。一方で、次世代の経営層は「あれではダメだ」と言っている人もいる。けどそういう次世代経営層も、実際に経営トップと同じポジションになったら、同じコメントをするのではないかと。だから文化って大事だし、事業にとても影響するのだと思っています。こういうことが再生産される構造があるんだなと。この根っこをどうやって断てば良いんだろう。または戦略的に文化を創造していくということについて、組織開発の実践者や、人事として取り組みながら考え続けなければいけないと思っています。

<コメント>

カルチャーが事業を育てる環境を阻害するんですね。

弊社でもバリューのことを「弊社らしさ」と呼んでいるので、目指す行動というよりはらしさの言語化なのかもですね。

強みも高まりすぎると弱みになる話、面白いですね。

変革を学びに来たのに、自己成長に気づかされるエピソードでした!

最後は皆さんで記念撮影。あっという間でしたが、充実した学びのひと時だったことが表情からも伝わってくると思います。

今後もセミナー開催を検討しています

ToBeingsでは定期的なセミナー開催を通じて、より多くの実践者の方々と学びを探求していく機会を作っていきたいと考えています。ニュースレター「flame」や、メールマガジンなどでも開催日時・テーマなどをお知らせしますので、ぜひ楽しみにしていてください!