【第2期参加】「刺身のつま」程度にしか思えなかった「感情」に向き合い、何かが変わり始めた

昨年9月より4ヶ月間にわたって開催された「今ここから始まる組織進化の実践講座」。合宿形式による入門講座、さらにオンライン形式で学ぶ本講座を通じて得た学びの変遷について、お話を伺いました。

アデコ株式会社

執行役員 Chief Legal Officer 兼 リーガル&コンプライアンス本部長

小林 洋光 

従業員の悩みを丁寧に聞くのも、法務の仕事

──普段はどのようなお仕事をされているのですか?

対外的にはリーガル部門のトップですが、私の部署が一番大きく扱っている仕事は、従業員の抱えている悩みを聞くことです。特に派遣スタッフのお悩み相談に応え、社内の仕組みとして必要な解決策を考えています。

そのために「1人ひとりが何に苦しんでいるのか」を理解し、どうすれば解決できるかを模索。個人的には「どうせ非正規の派遣だから」といった思い込みをなくすのが目標で、「非正規」という言葉自体を、世の中から一掃したいぐらい(笑)。その方のライフステージの違いによって有期雇用か無期雇用が存在するだけで、そこに正も非もありません。「派遣は正規にあらず」という社会観念をなくし、ビジョンを持って躍動しながら働く人が増えていく──そんな社会を本気で目指したいと思っています。

そう思うようになったのは、法務の仕事で「交渉に勝った」と喜んでいても、社会の役にたたないのではないかと感じるようになったからです。私はずっと言葉の力で相手を説き伏せてきました。感情さえも交渉を彩るための「刺身のつま」だと思って、キャリアアップしてきたんです。でも結局は、すべて自己満足。最近では年齢を重ねるとともに、そうした「交渉に勝った・負けたの世界」から一度離れてみたいと感じています。

よく分かるようで、分からない世界に飛び込んでみた

──当講座を受けようと思ったきっかけは?

ある時、役員から「小林さん、講座を受けてみない?」と指名を受けたのがきっかけです。「それならぜひ」と答えましたが、どういうことを学ぶのかはよく理解していませんでした。

当社(アデコ株式会社)で何度かToBeingsさんのセッションがあり、受けてみたこともあったんです。その時はまだ、分かるような分からないような…という印象でした。

でも30人も経営陣がいる中で、あえて私を指名してくれたわけです。それならやはり、行くしかないですよね。私にとって、40歳を超えてからのキャリアはすべて、神様にお任せ。「きっと周りの人が導いてくれる」と信じて、飛び込んでみました。

勝ち負けばかりの人生から「心から分かり合える信頼関係」へ。パラダイムシフトが起こった

──講座を通じて得た気づき・学びについて教えてください。

率直に言って、学んだことはいまだに腑に落ちていません。講座で学んですぐに「なるほど!」とはなりませんでした。

ただ「法務の仕事とは何か」という文脈で考えると、少し見えてくるような気がしています。講座内で学んだ「変える側・変えられる側」を超えて、その場をファシリテーションすること──それは世の中の対立を超え、「お互いにとって良いもの」をつくろうとする法務の在り方と同じなんです。

法務はお互いに良いものを作ろうとする接着剤、“触媒”のような役割を担っています。交渉して争うのではなく、お互いについて心から分かり合い、信頼関係があれば、リスクヘッジも契約書もいらなくなります。ただそれに気づいている法務はほぼいないでしょう。自分が目指したいこれからの新しい社会と、ToBeingsさんがやろうとしていることは近いかもしれないと感じました。

とは言え、ずっと言葉を使って「勝った・負けた」と交渉する法務の世界で生活してきましたので、なかなか簡単にはいきません。でも、意識するようにはしているし、講座の後で役員にも言ったのですが、それがわかっただけでも、「自分にとって人生が変わる」ぐらいのインパクトはあったと思っています。

──他に印象に残っていることはありますか?

一番は、仲間ができたことです。最初はよそよそしかったですが、本当に仲良くなりました。みんな悩んでいるんだと分かりましたし、同じ言語で語れる仲間がいることが嬉しい。講座で吸収した学びを社内で展開するのは、非常に難易度が高いですから。

私と同じように「何をするんだろう?」とよく分からない状態で参加した仲間もいれば、非常に深く勉強しているベテラン勢もいます。「プロセスワーク?ナラティブアプローチ?何それ?」と質問しながら一緒に学び、歩んできました。私のようなまったくの門外漢が突然放り込まれたおかげで、予想外の化学反応が起きたかもしれません。その点では、仲間のみなさんもきっと面白かったのではないかと思っています。

自分のシナリオに載せて話すことをやめた

──講座を終えて、ご自身の中で何か変化はありましたか?

同じグループ内でのロープレをしていくうちに、意識できるようになったことがありました。

例えば、どうしても目先の業務を処理したくなるのをこらえて立ち止まり、相手の仕草を見る。そして話を聞いて褒め、承認する。

この流れを繰り返すうちに、「みんな、話を聞いてもらいたいんだ。嬉しいんだろうな」と意識して傾聴できるようになりました。

今までは傾聴しているようで、していなかったんですね。結局「次に何を話そうか」とか、「自分にとって優位なシナリオにどう持っていこうか」ばかりを気にしていました。それを取っ払ってしまおうと思えるようになって、変わったんです。

気づけばいつの間にか会議での雑談が増えて、変わっていく様子が実感できるようになりました。また家庭でも以前に比べて積極的に話が交わされるようになり、その場が明るくなっていきました。チームも家庭も前より雰囲気が良くなったと思いますね。

さらに最近、強がることもやめたんです。その場にいる人に弱さを見せて、本音をポロッと出した瞬間にみんなが変わった瞬間があったんです。「実は家族のことで悩みがあって…」とつい言葉がこぼれて、「そうなんだ。ウチもこんなことがあったよ」とその場が盛り上がりました。人はそれぞれに事情があります。それでも頑張って仕事をしてくれて、本当に感謝しかないと思えた体験でした。

不完全燃焼かもしれない。でもむしろそれがいい

──これからさらに探求したいことはありますか?

「非正規」という言葉自体をなくしたいと冒頭にもお話ししましたが、これを実現したいと心から願っています。世の中を変えるために、他の会社も巻き込みながらチャレンジしていくつもりです。私のライフビジョンは「心と体の戦争状態をなくすこと」。労働紛争もそうですが、意地と意地がぶつかり合う不毛な争いをなくしたいです。

この講座での学びは、すっきりと何かが分かるものではありませんでした。でもわかってしまったら、振り返りもしないでしょう。不完全燃焼だからこそ、「あの講座での学びは、自分にとって一体何だったのか」と探求するきっかけになっています。そういう意味だと、人生を変えるわけではないけれど奥深い。シンプルですが奥深いものだと感じています。

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